第1回 第九とは?

ベートーヴェンがボン大学の聴講生だった18歳のとき、フランス革命が勃発しました。「自由・平等・博愛」の精神は全ヨーロッパに波及します。
「歓喜に寄す」はフランス革命の3年前に発表されました。作者のシラーはゲーテとともにドイツを代表する文豪です。当時26歳だったシラーはドイツの封建的な政治形態と専制主義的な君主制に悩まされてきただけに、ここで人類愛と何百万人の人たちの団結を高らかに歌ったのです。シラーは当初、これに「自由に寄す」という題を付けようとしたのですが、当時の官憲のきびしさから「自由(Freiheit)」を「歓喜(Freude)」に改めたのだと言われています。
ベートーヴェンはシラーの頌全体に音楽を付けたわけではなく、ベートーヴェン自身の訴えたい思想を表すために詞の並べ換えも行っています。全人類が協調して実現すべき平和を理想主義的に歌い上げています。
これまでの古典的な交響曲が声楽を全く持たなかったのに対し、この曲で初めて4人の独唱者と混声の合唱団を必要とするものが誕生しました。

《第一楽章》
神秘的な導入部ではじまるソナタ形式の開始楽章です。第一主題をさぐりだすような動きに始まり、これから何か大きなことが起こりそうな印象を与えます。

《第二楽章》
大規模なスケルツォ楽章です。交響曲の第二楽章に急速なスケルツォがおかれた例はこれが最初でしょう。入念な書法をみせティンパニを活躍させます。

《第三楽章》
平安な気分に満ちた穏やかで美しい祈りの音楽です。この天国的な夢がどこまでも続きそうなとき、結尾で金管が警告のような鋭い句を二度鳴らします。これは第四楽章の前触れを予感させます。

《第四楽章》
プレスト(非常に速く)の乱奏のようなすさまじい句に始まる第四楽章では、それまでの各楽章の断片が現れますが、低弦の旋律がこれらを次々に否定します。その後で、木管による素朴で美しい主題の旋律が現れます。主題は三回変奏され、次第に厚みと色彩を加えてゆき、それから再び乱奏があり、バリトン独唱が「おお友よ、これらの調べではなく、もっと快いものに声を合わせよう」と歌い始めます。やがて合唱も加わり、主題を変奏しながら歓喜を高らかに謳歌します、最後に最も急速に「抱き合え、何百万の人々よ」が合唱で歌われ、そして「歓喜よ、美しき神々の火花よ」が凱歌のように歌われるのを受け、管弦楽の怒涛のような高潮をもって、神、宇宙、自然、そして人間の尊厳をも讃えたベートーヴェン最後の大交響曲を一気に閉じます。