第10回 大作曲家ベートーヴェンの時代に楽器としてのピアノも急速に進歩した

我々が取り組む第九を始め、素晴らしい交響曲を書き残したベートーヴェンですが、彼のピアノ作品(とくにソナタ)は、そのままピアノの歴史と言っても過言ではありません。
作曲家が求める音楽にピアノ製作者も意欲をかきたてられ、そうして作り出されたピアノに、また作曲家が刺激を受けて音楽の世界を広げる、という画期的な時代だったようです。
ベートーヴェンはピアノソナタを32曲残しています。そして生涯のあいだに使ったウィーンのワルターやシュトライヒャーのピアノ、フランスのエラールのピアノ、イギリスのブロードウッドのピアノなどの特徴が、ソナタの内容に反映されています。その一例が、鍵盤の数(音域)です。ベートーヴェンは、そのときどきに使っていたピアノの鍵盤を目いっぱい使って作曲したと言われており、彼が使った代表的なピアノとピアノ曲との関連を少しまとめてみました。

◆初期(1782~1802年頃)
ウィーン・ワルター製(61鍵、1F~f3)

1800年前後までの初期の作品では、最高音の半音上(ファ#)が足りないため、無理をしてその音を避けて作曲していると分析されています。

◆中期(1803~1816年頃)
フランス・エラール製(68鍵、1F~c4)

このピアノの音域を活かし、さっそく<ワルトシュタイン>ソナタ第21番作品53に反映。低音の反復音で始まり、突然最高音域に跳躍して旋律がかなでられます。また、やはりこの時期に書かれた<熱情>ソナタ第23番作品57の終楽章では、このピアノの最高音c4がふんだんに使われています。

◆後期(1817~1823年頃)
イギリス・ブロードウッド製(73鍵、1C~c4)

1817年12月、ベートーヴェンの信奉者であるモシェレス、カルクブレンナー、クラマー、クレメンティ、ブロードウッドらが共同でベートーヴェンの47歳の誕生日にこのピアノを贈ったとされています。それに刺激されて大作<ハンマークラヴィーア>ソナタ第29番作品106が誕生。この題名は「ハンマークラヴィーア(ピアノ)のための」と書かれているところからつけられました。とくに低音域の鍵盤が増え、響きも豊かになったため、最後の3曲のソナタでは、この音域がみごとに活かされています。

ピアノと言えばショパンとリスト。ベートーヴェンと15~16年かぶりながら75歳まで生きたリストがベートーヴェンの交響曲をピアノ曲に編曲していることはご存じの方も多いと思います。