第13回 佐渡裕

佐渡裕【指揮者】佐渡裕
【管弦楽】新日本フィルハーモニー
【ソプラノ】リッツィ大岩千穂
【メゾソプラノ】坂本朱
【テノール】吉田浩之
【バリトン】福島明也
【合唱】栗友会合唱団
【録音年月】2002年8月
【録音状態】優
【レーベル】Warner Classics
【コメント】
ひとことで評せば、「聴きやすい演奏」と言えるだろうか。
これは「日本人にとって」ということかも知れない。よくも悪くも「個性むき出し」のようなところがない。それでいて隅々まで気配りが行き届いており、繊細な隠し味のような芸の細かさも垣間見える。
マエストロ佐渡は「日本人が好きな第九」を熟知しており、敢えてそこに寄せて演奏しているのではないか、とさえ思える。それほどに聴いていて心地よい演奏だ。
わざとらしいアゴーギグや奇をてらった表現は一切ない。初めて聴いてもどこか懐かしさを感じるような第九である。かと言って、他の誰かの第九に似ているわけでも決してない。師匠のバーンスタインの演奏とも似ているところはあまりない。
映像などで佐渡の指揮ぶりを見ると、とかく顔の表情が豊かで、曲の盛り上がりにつれて情熱的な動きが見られる。この演奏もライブ録音なので、さぞやこの日も指揮台上では派手な動きや切ない表情が見られたものと思うが、演奏内容は緻密である。「計算され尽くした興奮」と言ってもいいかも知れない。こう言うと、何か佐渡が冷血漢のように聞こえるかもしれないが、プロの表現者はこうあるべきだろう。自分の演奏に酔って興奮するのはアマチュアである。プロの演奏家は、聴衆を酔わせるために計算された熱狂を演じるものだ。
先述の通り演奏内容はあまりバーンスタインに似ていないが、意外なところで師匠直伝ではないか、と思える部分もある。「ここ!」というときに指揮台を踏み鳴らしてオケに気合いを入れたり、自らメロディーを唸り声のような声で歌ったりしているのである。これは何もこの第九に限らない佐渡のクセでもあるが、どうもこれすら演出ではないか、と思わないでもない。
それにしても、ライブ録音とは信じがたいような演奏の緻密さ、終曲に向かってのスピード感、緊張感の中でのオケのアンサンブルのよさは特筆ものだ。ソリスト、合唱団を含め、やはり国際級のレベルの演奏であることは間違いない。
押しつけがましい「個性」に辟易したらここに戻ってきたい1枚である。
次回は、20世紀の巨匠のひとり、オットー・クレンペラーが1957年にフィルハーモニア管弦楽団とレコーディングした気宇壮大な1枚を取り上げよう。

(ドクトルじんじん)