第9回 バーンスタイン

00_バーンスタイン79年S【指揮者】レナード・バーンスタイン
【管弦楽】ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
【ソプラノ】ギネス・ジョーンズ
【メゾソプラノ】ハンナ・シュヴァルツ
【テノール】ルネ・コロ
【バリトン】クルト・モル
【合唱】ウィーン国立歌劇場合唱団
【録音年月】1979年9月
【録音状態】優
【レーベル】ユニバーサル ミュージック クラシック
【コメント】
音楽的な説得力、ソリストのうまさ、録音のよさの三拍子揃った名盤である。数ある第九CDの中でも、誰しもが間違いなくNo.1グループのひとつに数えるだろう。
バーンスタインの音楽造形の確かさは今さら言うまでもない。このCDが録音された1979年は、60歳を過ぎたマエストロが円熟味を増してきた時期であり、またそれまでの溌剌とした音楽づくりから堂々たる演奏へと芸風が変わってきた時期でもある。細かくテンポや強弱を揺らして表現を豊かにしているが、それらは決してわざとらしくなく、必然性があるので素直に受け取ることができる。とくに、第三楽章はあのフルトヴェングラーのそれよりさらに遅いテンポで始まるが、楽節単位で徐々にテンポがあげていき、第四楽章への橋渡し的な計算され尽くした緻密な構成が聴き取れる。それはフルトヴェングラーに代表される、夢見るような抒情的な第三楽章ではない。
しかしだからと言って計算高い、感情の起伏のない演奏かと言えば決してそうではない。第四楽章におけるほとばしるような情熱は、やはりバーンスタインの真骨頂だろう。第四楽章前半の、初めて歓喜の主題が低弦で奏される直前の緊張感あふれるゲネラル・パウゼや、気の遠くなるような長さの vor Gott のフェルマータなどは、その代表的なものだ。
合唱による歓喜のテーマがひとしきり終わったあと、男声が「抱きあえ、諸人よ!」と歌うAndante maestoso は意外に荘厳感が感じられないが、バーンスタインのほんとうの狙いがそのすぐあとにあることはしばらく聴いていると理解できる。「ひざまづけ」と始まるAdagio ma non troppo, ma divoto の部分がこの楽章全体のハイライト、とバーンスタインは位置づけているのだ。この凄みのある表現は、マエストロの要求にじゅうぶん応え得るウィーン・フィルとウィーン国立歌劇場合唱団だからこそできたことなのだろう。
バーンスタインは、情熱のあまり指揮中に大きな音を立てて指揮台を踏み鳴らすことでも知られているが、この録音でもいくつかの箇所でそれが聴き取れる。もっとも大きな音を発しているのは、第二楽章のトリオが終わってダ・カーポするところのフェルマータの部分だろう。もはや演奏の一部ではなかろうか、と思えるほどである。
そして、何といっても特筆すべきはソリストの充実ぶりだ。Alla marcia のルネ・コロの楽しげな歌いぶりは、聴いているこちらも晴れ晴れとした気分になれる。また、ギネス・ジョーンズの美声と表現力にはほれぼれする。圧巻は終曲に近いソリストの四重唱であろう。4人が4人とも決して頑張りすぎず、お互いがアンサンブルを保ちながら絶妙なバランスで音の糸を絡み合わせていくさまは、他ではちょっと聴けない名演奏と言ってもいいだろう。
録音も非常によく、聴いていて疲れない。
文句なくお勧めの一枚である。

「定番中の定番」を紹介したあとは、現代のイギリスの指揮者にして古楽器奏法の研究家でもある、サー・ロジャー・ノリントンが自ら結成した古楽器オーケストラ「ロンドン・クラシカル・プレーヤーズ」による第九を紹介しよう。

(ドクトルじんじん)